夕凪の街 桜の国

「夕凪の街 桜の国」を読みました。

夕凪の街 桜の国 – Amazon

感想(ネタバレなし)

みなさんは今日(8月15日)が何の日かご存じですか?

そうです。

終戦記念日です。

個人的には、たくさんの方が戦争で亡くなったので、「記念日」という言葉は違和感があるのですが。

この終戦を迎えるまでには、昭和20年8月6日に広島で、8月8日に長崎で原子爆弾が投下されました。

日本人として忘れてはならない現実でしょう。

わたしは四国の人間ですが、広島に4年間住んでいました。

とても住みやすく素敵な都市でした。

この4年間に原爆資料館へ行ったのは、たったの1回です。

なぜ4年間も住んでいながら、1回だけなのか。

それは資料が強烈すぎたのです。

もう1回行く勇気が出ないのです。

頭に染み付いて離れない資料があります。

それは『人影の石』

衝撃でした。

そこに人がいたという事実。

わたしは立ちすくんでしまいました。

これが1回しか原爆資料館に行けていない理由です。

しかし、広島の街は大好きです。

今でも年に何度か訪れます。

さらに、今年は広島にとって歴史に残る年になりました。

バラク・オバマ氏が、現職アメリカ大統領として初の広島訪問を実現し、スピーチをしたのです。

2名の被爆者の方と握手をして、抱擁するシーンは感動的でした。

さて、前置きが長くなりました。

『夕凪の街 桜の国』です。

大きく3つのパートに別れており、2人の女性を中心に物語を紡いでいきます。

まず『夕凪の街』のパート。

こちらは平野皆実が主役です。

原爆の投下から10年後。

心に傷を負いながらも、幸せをつかもうとします。

次に『桜の国』のパート。

月日が流れ、皆実の姪にあたる石川七海を中心にして物語が進みます。

小学生時代と大人になっての2パート構成となっています。

七海は、父親と弟を通して、広島を感じていきます。

これは、すごい作品です。

原爆を知ってはいましたが、投下された後、広島の人々にどれだけの傷を残したのかを真摯に描いています。

わたしを含め戦争を知らない世代が教わらなかった事・・・いや、目をそらしていた事をつきつけられます。

あなたは被爆者差別をご存じですか?

この問題もしっかり描いています。

こうやって書くと大変重い作品のようですが、2人の女性が明るい性格のため、テンポよく読めます。

そして、読者は皆実と七海に手をとられて、ヒロシマと向き合うのです。

98ページと短い作品ですが、その内容は濃厚です。

作者のこうの史代さんは、広島出身です。

彼女の気持ちがギュッと詰まった“あとがき”もぜひ読んでください。

あぁ、この読んだ後の気持ちを上手く伝えられない。

とにかく、広島に行く前に読んでみましょう。

これを読んで広島の地に立つと、日本人としての心が震えると思いますよ。

感想(ネタバレ)

もう『夕凪の街』がたまらなかった。

皆実は、父親、姉、妹を原爆で亡くし、壮絶な状況を目にしました。

そして、自分が生き残った事が理解できませんでした。

だから、幸せになろうとしたら、原爆の記憶がよみがえってくるのです。

「私だけ幸せになっていいの?」

この申し訳ないという気持ちは、亡くなった人々に対してだけではなかったのでしょう。

被爆者差別という偏見もありました。

結婚もままならなかったのです。

ある日、皆実は打越さんと出会います。

彼は、叔母を原爆で亡くしており、家族も広島を理解している人でした。

皆実は幸せを掴みかけます。

その時に病気を発症してしまうのです。

無念だったでしょう。

原爆のトラウマと偏見を乗り越え、幸せになろうとした瞬間、また原爆の影が襲ってきたのです。

皆実が亡くなるまでのモノローグがたまりません。

原爆に対する怒り、くやしさ。

周りの人々の声は届いていません。

ただ打越さんの手の温もりだけは感じていました。

もう、たまらんかった。

この『夕凪の街』だけで震えました。

次に『桜の国(1)』です。

東京都中野区に住む小学生の石川七海の物語です。

七海の家族は、父親の旭、ぜんそくを患っている弟の凪生、祖母の平野フジミの4人です。

やんちゃな七海の日常生活が描かれます。

しかし、その裏側にはヒロシマの影があります。

それは、やはりフジミおばあちゃんでしょう。

彼女は皆実の母親です。

後でわかるのですが、旭は疎開先の水戸市から広島のフジミの元に移り住んだ時期がありました。

そこで太田京花と出会います。

京花との結婚を決める旭。

しかし、フジミは反対します。

京花は被爆者だったからです。

それでも2人は結婚をします。

そして、旭と凪生が生まれるのです。

しかし、京花は吐血して倒れ、亡くなってしまいます。

さらに凪生はぜんそくを患います。

フジミの心の傷も相当のものでしょう。

時が経っても原爆が追ってくるのですから。

その傷が露になるシーンがあります。

体調を心配するフジミに、七海は「ああ・・・急にめまいが」とおどけて返します。

すると、フジミは泣き崩れるのです。

七海に悪気があったわけではないので責められませんが、フジミの人生の壮絶さが伺えます。

また、七海の裏側にある利根東子の初恋物語もいいですね。

凪生に出会ったから、看護師の道が出来たのですね。

そして、『桜の国(2)』です。

今度は大人になった七海が、旭を通してヒロシマに触れる物語です。

やはりここの主役は旭でしょう。

彼も心に傷が残っています。

広島に原爆が投下された時、旭は水戸市の伯母宅に疎開をしていました。

5年後、フジミと皆実が迎えに来るのですが、広島へ帰るのを拒否したのです。

これはフジミと皆実の経済状況もあったでしょう。

『夕凪の街』で描かれる2人の生活は、大変貧しいものでした。

男手1つあれば、また違ったでしょう。

それを断った後ろめたさがあったのです。

そして、皆実の死です。

何もしてあげられなかった後悔。

それらが旭の心に残っているのです。

七海は旭を通して、広島での両親の姿に思いを馳せます。

そして、自分のルーツを知り、存在意義を見出だすのです。

最後に東子です。

彼女はわたし達です。

広島の歴史を頭で知っていながらも、その壮絶な現実に触れてしまい、戸惑ってしまいます。

東子は、凪生とヒロシマを受け入れて、これから少しずつ考えていくのでしょう。

わたしも、この『夕凪の街 桜の国』を読んだ以上、広島と長崎についてより深く考えていく義務が生まれた気がします。

わたしは、まずは原爆資料館に行く事だな。

もう一度。

年を重ねたわたしは、あの資料をどう感じるのだろう。

勇気を出して、行きたいと思います。

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