「息もできない」を観ました。
みなさんは人前で泣いたことはありますか?
わたしはありますよ。
泣き虫なので。
足の小指をぶつけてビェー!!
お菓子を買ってもらえなくてビェー!!
ドラえもんの映画でのジャイアンを観てビェー!!
泣きっぱなしです。
今回は、膝の上で男泣きの物語“息もできない”です。
わたしは、凄まじい暴力をふるっています。
「この~。死にてえのか?おい」
わたしは頭を責めます。
「放して。放してよ。イカれたやつ」
相手は抵抗します。
「何だと?この~。チクショウ」
わたしの言葉にも相手は怯みません。
「いいわ。ねぶりなさいよ。この野郎」
「この~!!」
わたしの暴力は激しくなります。
「放してったら。バカ野郎」
わたしはそんな言葉にも耳を貸さず、きのこの山のチョコの部分を、ねぶってねぶってねぶりたおします。
そして、クラッカーだけにしてやるのです。
これが、わたしの49あるきのこの山の食べ方の1つ。
「一人芝居でチョコだけねぶりたおし食い」なのです。
切ない物語でした。
たまらん気持ちになりました。
キム・サンフンは暴力的なチンピラです。
兄貴分のマンシクの貸し金業で、取り立てをしています。
殴って蹴ってお金を取り立てるのです。
初め、わたしは「なんだこいつ!?狂犬やん!!」と思って観ていました。
しかし、観終わった後は、「なんて優しくて哀しい奴なんや・・・」と胸がしめつけられる様な気持ちになりました。
サンフンの生い立ちは壮絶です。
彼には姉と妹がいました。
父親は母親に暴力を振るう男でした。
ある日、母親に暴力を振るう父親を止めようとした妹が、父親に刃物で刺されてしまいます。
その妹を背負い、病院へ走ったサンフン。
それを追っていこうとした母親は、事故にあい亡くなってしまいます。
そして、妹も間に合わず、亡くなってしまったのです。
父親は刑務所に入ることになりました。
こうして、姉とサンフンの二人だけになってしまいました。
彼は、必然的に社会からドロップアウトをしたのでしょう。
そして、父親への憎しみが暴力に転化していったのです。
借金するような父親は、ほぼろくでなしです。
そんな相手だから、サンフンにとっては借金取りは天職だったのです。
父親に似たようなろくでなしから、金をむしりとるのですから。
狂犬のようなサンフンにも、彼なりに可愛がっている相手がいます。
姉の息子のヒョンインです。
これは、自分があの父親とは違うという事を示したいのでしょう。
そんなサンフンに2つの転機が起こります。
父親の出所と、女子高生のハン・ヨニとの出会いです。
サンフンは出所した父親に暴力を振るいます。
小さい頃は抵抗できませんでしたが、今は違います。
そして、ハン・ヨニです。
彼女は、サンフンに物怖じする事なく、接してきます。
サンフンもヨニといると、気が楽になります。
ずっとしかめっ面のサンフンが1度だけ笑うシーンがあります。
それは、ヨニと屋台で食事をするシーンです。
多分、妹が生きていたらこんな感じだったのだろうと思ったのでしょう。
ハン・ヨニも複雑な家庭環境です。
父親は、ベトナム戦争の生き残りです。
ストレスが原因なのか、おかしくなっています。
ヨンジェという弟がいますが、ヨニから金をせびり取り、悪い仲間と付き合っています。
彼女には母親はいません。
すでに亡くなっているようです。
さて、ハン・ヨニの母親ですが、過去に屋台をやっていたそうです。
そして、回想シーンで、屋台を壊す借金取りの中に、若き日のマンシクとサンフンがいます。
そして、母親がサンフンに付けた左腕の傷。
サンフンが着替えるシーンでも、傷は残っています。
はたしてサンフンは、ハン・ヨニの母親を殺したのでしょうか?
傷付けられた時に殴るシーンはありましたが、彼が殺したのかどうかまではわかりません。
とにもかくにも、過去に繋がりはあったのです。
そしてある日、サンフンは、姉とヒョンインが父親と仲良く過ごしている姿を見ます。
また、マンシクからも「父親を許してやれ」と言われます。
しかし、どうしても父親を許す事ができないサンフンは、逆上して「殺してやる」と家に向かいます。
すると、そこには倒れている父親と、亡くなったはずの母親と妹が。
父親が手首を切って自殺をはかったのです。
次の瞬間、彼は父親を担ぎ、病院へ走っていました。
ハン・ヨニは、毎日、父親から「母親はどこへ行った」と聞かれます。
その度に「すでに死んだ」と伝えます。
これはツラい事です。
ヨニにとっては、毎日母親の死を再確認させられている事と同じなのですから。
そして、怒りが爆発してしまいます。
その瞬間、ヨニの父親は刃物を取り出します。
殺されると感じたヨニは逃げ出します。
そこに、サンフンから電話があります。
漢江で会う2人。
そして共に泣くのです。
サンフンは、憎んでも断ち切れなかった父親との血の繋がりに。
ヨニは、愛そうとしても断ち切られそうになった父親との血の繋がりに。
彼らの哀しみは、複雑に絡み合うのです。
そして、心を許しあえるのです。
父親を許す事にしたサンフンは、借金の取り立てを辞める事にします。
父親への憎しみが、だらしない人間への暴力に向かっていたのですから、もう出来なくなったのでしょう。
そして、取り立ての最後の日。
ヨニの弟のヨンジェと、ある家に向かいます。
そこには父親と兄妹が。
父親が息子に言います。
「サンフン。中に入っていなさい」
そうです。
昔の自分の家とそっくりなのです。
父親を殴るヨンジェに「やめろ」と止めるサンフン。
「今回はもういい」と帰ろうとするところを、父親に金ヅチで頭を殴られます。
それでも帰ろうとしたサンフン。
そこをヨンジェに殴り殺されてしまうのです。
「なぜ、ためらうんだ」と。
ヨンジェは、金を稼いで、今の生活から抜け出したいのでしょう。
かつてのサンフンのように。
ラスト、ヨニは屋台を壊す借金取りの集団を見かけます。
その中にはヨンジェの姿が。
そして、サンフンと重なります。
ヨンジェは、かつてのサンフンと同じ道を歩き始めました。
サンフンは、幸せをつかもうとした瞬間、命を落としました。
ヨンジェは、この先どうなるのでしょうか?
それは、わかりません。
しかし、彼が心を許せる相手に出会ったら、また新たな運命が動き出すのかもしれません。
キム・サンフンとハン・ヨニのように。